乃木坂46
※画像は乃木坂46のシングル『夜明けまで強がらなくてもいい』(通常盤)より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第2回 高橋栄樹が描いた「アイドル」と「個人PV」の自由 2/4

■台本のないドラマに宿るリアリティ

 乃木坂46は11、12枚目シングルとなる『命は美しい』『太陽ノック』(いずれも2015年)収録の個人PVに、ひとつの趣向を採り入れる。通常、個人PVでは一作品につき一人のメンバーを主役とするが、「ペアPV」と称されたこれら2タイトルの特典映像では、一作品につき二人のメンバーをキャスティングしている。必然的に、ペアを組んだ二者間にどのような関係を見出し、ショートムービーにするのかが問われることになる。

『命は美しい』収録のペアPVでは、齋藤飛鳥星野みなみ白石麻衣橋本奈々未西野七瀬若月佑美などの組み合わせで作品が作られたが、そのなかで高橋栄樹が監督として担当したのは生駒里奈&伊藤万理華のペアだった。

 グループの草創期にセンターポジションを立て続けに務め、それ以後も乃木坂46の象徴的存在としてあった生駒と、ペアPV制作の約1年前に始まったアンダーライブを牽引していた伊藤の2人は当時、いわば「選抜」の中心と「アンダー」の中心にいた。同学年でもあるこの二者に鏡像関係を見出した高橋は、生駒と伊藤に双子という設定をあて、両親の離婚によって二人が離別する直前のひとときをドラマに仕立てた。それが、ペアPV『あわせカガミ』である。

https://www.youtube.com/watch?v=OO9Co_WA9dk
(※生駒里奈&伊藤万理華ペアPV『あわせカガミ』予告編)

 本連載の前回更新分では、高橋栄樹が漫画家・志村貴子の作品『青い花』の世界観を、AKB48や乃木坂46の映像作品に投影してきたことに触れた。『あわせカガミ』の具体的なディテールからは、同作もまたその延長線上にあることがうかがえる。

『あわせカガミ』は、『青い花』の舞台と同じ湘南・鎌倉エリアで撮影されている。そして、主として映像の序盤に登場する鎌倉文学館は、まさに『青い花』のメインキャラクター・奥平あきらが通う「藤が谷女学院」のモデルになった施設である。建物へと向かう途中の特徴的なトンネルや館内のベランダなど、鎌倉文学館で撮られた場面のみ二人が制服衣装をまとっていることもあり、ビジュアル的にも志村作品からの直接的な影響関係を思わせる。

 もっとも、このドラマにおいて肝要なのはそうした表層的に見て取れる面ばかりではない。生駒と伊藤が演じる双子はおそらく、この鎌倉散歩を終えるともはや日常的に顔を合わすことはなくなる。カメラに撮られることを嫌う彼女たちは、代わりにICレコーダーで身の回りの音を採集しながら、別離の予感が忍び寄る時間を過ごす。

 こうした関係性を二人に託した高橋は、細かなダイアローグを生駒と伊藤のアドリブに任せ、自由度の高いやりとりで各シーンを構成している。役柄にのみ依存するわけではなく、ときに実際の世界を生きる生駒里奈と伊藤万理華としての実存も垣間見せるような会話や表情のうつろいは、必ずしも劇中の設定にとっておさまりが良いわけではない。それだけに、そのフリーさの内に特有のリアリティが宿る。

 そのような自由度は、個人PVという実験的で取り決めの少ないフィールドによってこそ生まれやすいものでもあるだろう。高橋がこれまでに乃木坂46の個人PV/ペアPVを手がけた回数はさほど多いわけではない。それでも、彼はこの企画に参加するたびに、乃木坂46の映像コンテンツがいかに枠組みを気にせず制作しうる場であるかを示してみせる。次回は、乃木坂46のデビュー初年度に高橋が手がけた個人PVに目を向け、その足跡をたどってみたい。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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