乃木坂46
※画像は乃木坂46のシングル『夜明けまで強がらなくてもいい』(通常盤)より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第1回 「演じる者」としての乃木坂46 4/4

 乃木坂46というアイドルグループを特徴づけるもののひとつとして、シングルリリース時に制作される「個人PV」がある。現在既に数百の作品があり、今も増え続ける個人PVは、グループにどのような豊饒さをもたらしているのか。MdNムック『乃木坂46 映像の世界』で個人PV全作品解説を担当したライターの香月孝史による、個人PVに焦点を当てた連載がスタート。

■初期個人PVの模索

 もちろん、オリジナルのブランドが成熟していないことは、乃木坂46というプロジェクトが無策であったことを意味しない。先に述べたように、「演じる者たち」を生み出すための志向を草創期から一貫して持ち続けてきたのが乃木坂46であり、それを体現するための企画が「16人のプリンシパル」であり個人PVであった。

 とはいえ、すでにキャリアのある著名な映像作家を招くという選択肢は、MVと同じく初期の個人PVにもみられる。草創期からすでに、個人PVは新進作家との出会いを探す実験的な場ではあったものの、その一方、1stシングルで生駒里奈の個人PVを担当した堤幸彦や橋本奈々未の個人PVを手がけた三木聡、2ndシングルで中田花奈を担当した手塚眞といった人々の起用は、ある種のキャッチーさが重視されたものだっただろう。

 メンバーたち自身がまだ「演じる者」としての蓄積をもたないだけに、最初期の個人PVには、そうした映像作家のネームバリューや作家性の強さがとりわけ前面にあらわれる。たとえば、三木聡による橋本奈々未の個人PVは、三木自身の作品をセルフオマージュした趣が強くうかがえることもあり、乃木坂46のコンテンツであるよりもまず三木聡という作家性こそが浮かび上がる。

https://www.youtube.com/watch?v=JuHMLpodK-M

(※橋本奈々未×三木聡 個人PV:1stシングルの個人PVは公式がフルバージョンで公開しているので、リンクはフルバージョンのもの)

 また、のちに橋本が身につける演者としてのスキルを思えば、この個人PVではいまだ彼女がきわめて粗削りであることもよくわかる。すべてのメンバーが「演じる者」として初期段階にあることも手伝って、この時期の個人PVは総体としていびつなバランスを持ったコンテンツといえる。おそらくこの時点で、個人PVという企画が長期的な継続をみせ、比類なき映像文化を形作る姿を思い描くことは難しかっただろう。

 しかし、このいびつな作品群のなかに、やがて乃木坂46を代表するようなクリエイションの種はいくつも蒔かれていた。それらが花開き、乃木坂46のブランドに彩りを添えてゆくのはもう少し先のことである。

乃木坂46「個人PVという実験場」

あわせて読む:
・乃木坂46梅澤美波がVRアート作品で芸術家としての才能を発揮!