韓国への弾丸旅行がメインテーマとなったこの個人PVだが、旅番組のようなカジュアルさや、ゆるやかさとはまた異なる丸山の作風が強烈ににじむ。色彩の鮮やかさやスタイリッシュさからは、丸山が監督するいくつもの乃木坂46のMVに相通じるテイストがうかがえる。また、テンポの良いカット割りの上に乗る伊藤自身によるナレーションは、一定のリズムを刻むようにして作品全体の推進力になってゆく。さらに、伊藤自身の思索と創作とが混じり合ったようなそのナレーションの文言は、彼女の独特の声色とも相まってフィクションとドキュメンタリーのあじわいを巧みに描き出した。

 1stシングル収録の柳沢翔監督『ナイフ』から、2ndシングル収録『デート前日の気持ち』、そして3rdシングル収録の韓国旅まで、デビューから一年足らずの間に撮影された個人PVにおいて、伊藤は立て続けに映像作家の個性を強く引き出す依代となり、また彼女自身もこれら3作すべてで演技者としての異なる引き出しを垣間見せている。まだグループ内での伊藤の立ち位置も、あるいは乃木坂46というグループそのものの強みも定かではなかった2012年、彼女は個人PVのなかで静かに自らの武器を育てていた。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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