乃木坂46ファンで内気な兄(前野朋哉)と呆れつつ兄を見守る妹(井上)、前野に思いを寄せ告白する同級生(斉藤)の三人で綴られる「愛の飛び蹴り」は、「ともだちのともだち」とは一転してアイドルへの思慕をコミカルに織り込み、ハッピーなテイストに仕上げられている。また、劇中に「乃木坂46」にまつわるグッズや台詞などのディテールを忍ばせた本作は、一見すればファンダムの内側に向けたコンテンツとしての趣が強い。頃安のもつアイドルへの距離感が、意匠としてストレートに反映されたものといえる。

 しかしまた、斉藤と前野が揃って演じる飲み込みづらいキャラクターを前にして、井上がみせるいささか引き気味の演技は、その後の彼女の芝居に通じるおかしみを表現しえている。前作「ともだちのともだち」も含め、俳優・井上小百合の強みを早い時期から表に引き出してみせるクリエイターの一人として頃安は存在した。

「愛の飛び蹴り」は、頃安による個人PVとしては例外的に、幸福なエンディングを迎えるドラマである。こののち頃安は再び、秘めた思いを果たせない報われぬ者たちの物語を個人PVに託してゆく。そして、「ともだちのともだち」「愛の飛び蹴り」に前後する2010年代なかば、彼は乃木坂46が輩出するまた別の才能たちとも相対することになる。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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