■個人PVの蓄積があるからこそできた3期生の個人PV

 こうした「個人PVが制作されるさまを個人PVに仕立てる」自己言及性をさらに追求してみせたのが、久保史緒里の個人PV「個人PVについて私が知っている五、六の事柄」(監督:頃安祐良)だった。

https://www.youtube.com/watch?v=-K-ngM4ln84
(※久保史緒里個人PV「個人PVについて私が知っている五、六の事柄」予告編)

 YouTubeに公開された予告編で示されるのは、久保が元々乃木坂46のファンであったことや撮影を終えての感想などが語られる一見オーソドックスなインタビューカット、そして個人PV本編のドラマへのイントロのような情景である。

 しかし実のところ本編では、予告編から想像するようなドラマが素直に展開されるわけではない。むしろ作中にうかがえるのは、乃木坂46の映像コンテンツの蓄積のうちに刻まれてきた「個人PVらしさ」を具体的に逐一指摘するような俯瞰した視野である(そして、予告編の印象を本編が大きく裏切ることさえも作中で自己言及的に回収する)。

 もっとも、「個人PVの歴史」を背負ったメタ的な構造で作られながらも、巧妙さよりもむしろストレートな瑞々しさが後味に残るのは頃安祐良という作家の、あるいは久保史緒里という演者の資質によるところが大きい。

 加えてこの映像は、演技者としての入口に立つ久保の息遣いを伝える優れたドキュメンタリーでもあり、そして梅澤の作品同様に「乃木坂46の一員になる」ための象徴的なプロセスとして個人PVがあることを照らし出してもいる。3期生の加入は乃木坂46に層の厚さをもたらしたが、同時に1・2期生が築いてきた映像コンテンツの豊かさをあらためて指し示す契機でもあった。
 

乃木坂46「個人PVという実験場」

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