■セクシャルな事柄がごく当たり前の断片として描かれる

 dTV「猿に会う」では、明石さつき(柴田)が運転する車でのドライブ、そして日光で観光地や温泉宿をめぐり東照宮に参るまでの旅程がドラマ化され、4期メンバーによって高橋×乃木坂46のロードムービーの系譜が引き継がれている。

 また、第3話で三人が滝見物に向かう場面では全4話中随一の景観を堪能することができるが、このシーンで流されるのは、生駒と伊藤のペアPV「あわせカガミ」のエンディングで用いられていたクリテツによる楽曲である。およそ5年越しに採用された同楽曲からも、高橋の先行作品とのリンクを見つけることができる。

 日光への旅行を通して本作が描くのは、モラトリアム期が終わる予感を前にして3人が持て余す、近未来への焦燥である。このままではいられない、あるいは周囲の親しい他者に置いていかれる感覚が、この作品では特にセクシュアルな事柄への悩みやコンプレックスをにじませる描写にあらわれる。第3話、温泉宿で飯田まこ(賀喜)と蒼井きよ(清宮)が交わす会話は、そうした主題を最も象徴的に表すハイライトだ。

 また、二人の会話中に浮かび上がる葛藤は、ややフェーズを変えてまさに彼女たちが従事する「アイドル」というジャンルが抱える、抑圧的な慣習をも想起させる。高橋が2010年代に手がけてきたドキュメンタリー作品などにも通じる、アイドルシーンへの批評的な視線がここにはうかがえよう。

 そして重要なのは、それらセクシュアルな事象がことさら煽情的に用いられるのではなく、とりたてて強い意味を託されるのでもなく、きわめてデリケートに扱われつつも、ごく当たり前の人間の生の断片として描写され、演じられているということだ。その繊細なバランス感覚ゆえに、青年期の葛藤を綴った物語としても、「アイドル」として生きる乃木坂46メンバーたちが体現するドラマとしても、意義深いものになっている。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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